'eL-tneO 表紙図書館小説 ⇒ 『キノコを巡る論争』


『キノコを巡る論争』


  F.I. 松林、一面のキノコに囲まれて舞台中央に軽登山姿の若者が2人。
  2人とも焦燥の色が見える。サスで2人に照明を集める。


「つまるところだ、世の中には2種類のキノコしかね〜わけだ」
「ほう」
「食べられるキノコと、食べられないキノコだ」
「で?」
「今、我々の目の前には大量のキノコが地面を被い尽くさんばかりに生え茂っているってぇわけだ」
「あぁ、生えてるな」
「そして、我々の荷物にはもはや食料がねぇ」
「下山予定日をすでに3日も過ぎているからな」
「要するに俺らは、今、遭難しそうなんだ!」
「ここまで追い詰められてギャグが出るのはえらいな」
「そこで、さっきの命題が重要になるわけよ」
「命題って、なんだよ。もったいつけるな」
「つまりっ! 世の中には2種類のキノコしかねぇ」
「食べられるか、食べられないか、だろ?」
「そう。ひょっとしたらこのキノコを食べれば俺らは生き延びられるかもしれないっ!」
「食べられるキノコの場合はな。そうじゃなかったら?」
「To be, or not to be. This is the problem.」
「日本語で喋れ」
「食うべきか、食わざるべきか、それが問題だ」
「要するに毒キノコだったら死ぬかもしれないと?」
「That’s it!」
「日本語で喋れ。で、どうやって毒キノコかそうでないか調べるつもりだ?」
「見た目が派手なのは毒キノコらし〜ぜ?」
「こいつは地味だな。だが派手じゃない毒キノコもあるらしいぞ」
「――縦に裂けるキノコは毒キノコだとか」
「今やってみたが、縦に裂けたぞ」
「……」
「……」
「やはり毒見をするしかね〜な」
「誰が?」
「お前」
「嫌だ」
「どうしてよ?」
「あたりまえだろ、ボケ。毒キノコだったらどうするんだ」
「俺は食べない。だから安心」
「僕はどうなる?」
「毒キノコだからといって、必ず死ぬわけじゃね〜さ」
「なら発案者のお前が食べたらどうだ?」
「いやいやいや、よ〜く考えてみるんだ。カルネアデスの船っつ〜のを知ってるか?」
「また、屁理屈が出そうだが、一応聞いてやる」
「船が沈没して遭難した時、一人の男が木片にしがみついていた」
「ふむふむ」
「木片は男一人の体重を支えるのが精一杯のサイズ。そこに別の遭難者が来たとする」
「あ〜、なんとなく言いたいことが分かってきたぞ」
「木片には二人分の浮力はなく、二人ともがつかまったら沈んでしまう。そんな時には……」
「……一応、聞いておくが僕たちは友達だったよな?」
「相手を殺しても刑法上は殺人にならないのだよ」
「つまりお前は僕を殺す気だ、と?」
「二人共倒れで死ぬよりも、一人を確実に殺すことで、もう片方が生き延びられる可能性があがるならその方がいいっちゅ〜こった」
「で?」
「食え」
「嫌だ」
「なら、無理やりでも食わせる」
「ほう」
「なぁ、聖書にも書いてあるだろう? 友のために命を捨てる、これ以上の愛はないって〜な感じ?」
「なら、お前が愛を実践してみろよ」
「いやいや、そんな尊い業、俺には分不相応だっつ〜の。お前に譲ってやるよ」
「僕こそお前に譲ってやるよ」
「意見が合うねぇ〜」
「ていうか、追い詰められると、人間、本性が出るんだな」

  右手にキノコを構え互いににじり寄りあう二人。F.O.

  C.I.舞台中央には互いに相手の口にキノコを突っ込みあった姿勢で死んでいるとB。
  その2人を検分する警察官2人。


「巡査部長、私も永年、山岳遭難者の鑑死をしてきましたけれどもこんなケースははじめてですよ」
「どういう事かね?」
「いや、二人とも餓死しているのですけど……」
「うむ」
「お互いの口の中にマツタケを突っ込みあっていて、それでいてどちらも食べていないのです」
「ふむ、(周囲のマツタケを見渡す)相手に先に食べさせようと譲り合ったのかな?」
「自分が死ぬまでですか? ちょっとありえないですね」
「まぁ、いい。変死体など、この時代、いくらでも出てくるものだ。鑑札に回して、ショに戻るぞ」
「はい」

  F.O.『火曜サスペンス劇場』のエンディングテーマを流す。
  めでたし、めでたし

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